まず全体像を一言でまとめると――1997年11月18日発売・全192ページの『MAJOR』16巻は、右肩故障から“左投げ転向”を宣言した茂野吾郎が三船東野球部の再起動をけん引し、かつての仲間・山根を含む不良グループを野球のフィールドに引き戻す“リスタートの炎”を描く巻だ。練習試合の挑発、仲間割れ寸前の修羅場、そして吾郎の執念が燃え上がるラストまで、ページをめくる指先が土埃でざらつくほど熱い。
ストーリー概観
帰ってきた勇姿
物語は夏の大会を前に、廃部寸前だった三船東中野球部が始動する場面からスタートする。吾郎は肩を壊した右腕を封印し「じゃあ左で投げればいい」と無茶ぶり全開で復帰宣言。
山根と“不良組”の造反
かつてリトルリーグ時代にチームメイトだった山根は、上級生の理不尽で野球を憎み不良化。部室破壊事件まで起こすが、吾郎に“拳と本音”でぶつけられ徐々に心を揺さぶられる。
三船西との練習試合
部員ゼロからスタートした三船東は、キャプテン小森の勧誘と清水薫のサポートでメンバーを確保し、本格再始動として三船西との対戦を取り付ける。西中監督は「一年生だけを並べた舐めプ」と「吾郎を潰せ」という二重作戦で挑発。
左腕覚醒のカウントダウン
試合本番で吾郎はまだ登録外。審判として乱入しながらも、本気で投げられない葛藤に歯ぎしり。読者は「いつ投げる!?」とページをめくる手が止まらなくなる。
キャラクターの火花
キャラ | 今巻で光ったポイント |
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茂野吾郎 | 右肩故障→左投げ転向という無謀さを“笑顔”で押し通す執念。 |
山根 | 不良姿の裏に潜む“野球少年”を呼び戻される過程が胸を打つ。 |
小森大介 | キャプテンとして勧誘・采配・仲裁に奔走。陰のMVP感が倍増。 |
清水薫 | 部活再建を後押ししつつ、吾郎へのツッコミで物語を回すバランサー。 |
震えたシーン BEST5
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吾郎 vs 山根“拳と涙”の真夜中対話 – 拳を交えた後の「もう一度野球やろうぜ」に、山根が歯を食いしばるコマで即泣き。
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小森の宣戦布告 – 西中の舐めプに「これが野球かよ!」と声を張る場面。普段温厚な小森が仁王立ち。
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左腕だけの投球練習 – 深夜の校庭、一人で壁当てする吾郎の汗が白トーンに光る演出に鳥肌。
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清水の叱咤 – 部員を集める小森に差し入れしつつ「泣き言は試合後にしな!」と背中を蹴飛ばす。
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山根の一塁ダイブ – 試合前のシートノックで転倒してもボールを離さない執念が描かれ、不良から選手へ変わる瞬間を刻む。
演出・作画の妙
満田拓也は16巻で“速度”より“圧”を重視。投球を封じられた吾郎の内なる熱を、 太い黒ベタ+汗の飛沫 で表現し、ページを開くだけでムッとした空気が漂う。 また不良グループとの対峙シーンでは背景をベタ黒に沈め、心理的な閉塞感を演出。対照的に山根が再びグラウンドに立つコマは白バックに切り替え、“浄化”の光を感じさせる。
少し惜しいポイント
西中の監督や先輩の“悪役”描写がややステレオタイプで、山根が覚醒する流れに尺を割いたぶん掘り下げが不足。しかし読後感としては「悪に時間を割くより吾郎と山根を見せて正解」と納得できるバランスと言える。
まとめ
16巻は“故障→転向→再建”という三重苦を正面突破し、純粋な野球馬鹿が周囲を炎上させていくプロセスを描いた“加速巻”だ。左投げ覚醒はまだ先だが、「投げられない主役がこんなに熱いのか」と驚かされる。ページを閉じても、汗と土の匂いが指先に残る。
続きはぜひ原本で味わってほしい